岡山地方裁判所 昭和44年(む)224号 決定 1969年5月24日
主文
岡山地方検察庁検察官山岡靖典が昭和四四年五月二二日付でなした別紙第一記載の接見等に関する指定はこれを取消す。
理由
一、本件申立の趣旨及び理由は別紙第二記載のとおりである。
二、当裁判所の事実調べの結果によれば、被疑者は、公務執行妨害、傷害被疑事件について昭和四四年五月一九日逮捕され、同月二二日代用監獄岡山西警察署に勾留されていること、同日岡山地方検察庁検察官山岡靖典が別紙第一記載の接見等に関する指定書(以上一般的指定書という。)なる書面の謄本を岡山西警察署長及び被疑者宛て発送していることが明らかである。
三、ところで刑事訴訟法三九条一項が、弁護人及び弁護人となろうとする者等(以下弁護人等という。)は、被疑者の防禦権者として何時でも自由に被疑者と接見し、又は書類若しくは物の授受(以下接見等という。)をすることができる旨のいわゆる秘密交通権を保障したものであること、同法八一条が弁護人等の接見禁止を除外していること等からすれば、弁護人等と被疑者との接見等を包括的、全面的に禁止することは刑事訴訟法の許容しないものであるといわなければならない。
ただ、例外的に、同法三九条三項は、捜査官が、捜査のため必要があるときは、公訴提起前に限り接見等に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる旨規定して、右秘密交通権が一時的に制限されるものとしているのである。
右の捜査の必要とは、被疑者を現に取調中かそれに付随する行為の行なわれている場合を指称するものと解することが、被疑者に有効な弁護を依頼する権利を保障した趣旨と解される憲法三〇条、及び弁護人等と被疑者の秘密交通権を保障した刑事訴訟法三九条一項の精神に合致するものであるが、仮りにそれを広く解するとしても、同条三項の接見等に関する指定によって、秘密交通権に対し全面的、包括的な制限が許容されるものでないことはいうまでもない。
従って、同条一項により、原則として弁護人等と被疑者の接見等は自由であり、例外的に同条三項により接見を一部禁止されるのであるから、同項の指定は、接見等をさせないことについての日時、場所、時間の具体的指定でなければならないと解するのが相当である。
ところで、一般的指定書には捜査のため必要があるので、被疑者と弁護人等との接見等に関し、その日時、場所および時間を別に発すべき指定書(以下具体的指定書という。)のとおり指定する、旨の記載がなされており、又具体的指定書には被疑者と弁護人等との接見等に関し、指定の日時、時間、場所が記載され、接見等の機会を与えた結果につき、接見時間等を検察官宛に報告する欄が設けられておる。
右一般的及び具体的指定書の記載内容及び一般的指定書が監獄(代用監獄)の長に発送されると監獄の官吏は、具体的指定書を持参しなければ接見等を拒否する取扱いがなされていること等からすれば、右具体的指定書が接見等を禁止するために日時、場所を指定するものではないといわざるを得ず、従って一般的指定書とは、別に発する具体的指定書に指定された日時、場所及び時間においてのみ接見等を許可し、それ以外の日時、場所及び時間ならびに具体的指定書を持参しない場合は接見等を許さない趣旨のものと解するのが相当である。
してみると、検察官の具体的指定書による指定が、接見を部分的禁止することを指定できる旨規定する刑事訴訟法三九条三項に違背する指定として違法であるうえ、一般的指定書は、弁護人等と被疑者との接見等を全面的に禁止することを許容しない刑事訴訟法に違背するものとして、違法なものといわなければならない。
四、ところで、検察官は、一般的指定書は、監獄の長に対し、弁護人等と被疑者との接見に関し、日時、場所及び時間の指定をなす意向である旨の単なる事務連絡にすぎないものであり、同法三九条三項にいう接見等に関する指定ではない旨主張するが、前述のとおり、その記載内容からして接見等の全面的禁止たる意思表示としての指定であると解すべきであること、同法三九条三項の指定権を有する者によって一般的指定がなされ、被疑者にも一般的指定書の謄本が交付されること、監獄官吏は、一般的指定書が交付されると、前述のとおり具体的指定書を持参しなければ接見を拒否する取扱いがなされていること、一般的指定書が、それによって接見を禁止することを目的として交付されているものと考えられること等を考慮すれば、一般的指定書は同法三九条三項に基き、弁護人等と被疑者との秘密交通権を制限するためのものであり、まさに「接見等に関し」てなされるものあり、かつまた具体的指定書の指定に依る旨を指示するものとして、文字通り「接見等に関する指定」をするものである。
なお、一般的指定が接見等の全面的禁止の処分である以上、それは法の全く予想しないものであって、そもそも同法三九条三項にいう指定には該当しないとする見解もあるが、昭和四一年七月二六日最高裁第三小法廷決定(最判昭和四一年二〇巻六号七二八頁)の趣旨(公訴提起後、検察官が接見等に関する指定権があると誤解して、接見等を拒否した場合にも、同法四三〇条により準抗告の申立が出来る。)からすれば、検察官が、弁護人等の接見を全面的に禁止することが出来ないにも拘らず、一般的指定という形で全面的禁止をした場合にも、該指定は同法三九条三項による不適法な指定として同法四三〇条の準抗告の対象となるものと解するのが相当である。
五、以上のとおりであるから、本件一般的指定書による指定は違法として取消を免れないから、刑事訴訟法四三〇条、四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 古性明)
<以下省略>